ケーススタディ
保守的で行動を変えようとしない部下
あなたは関東近県で自動車販売店の店長をしています。今年から、入社2年目の黒木君があなたの店舗に異動してきました。彼の営業成績は思うように伸びず、3ヵ月連続で目標未達となっています。周囲は彼の営業成績向上のためにアドバイスをしますが、黒木君は「そんな取り組みはしたことがないので、難しいです」と否定的になったり、「ハードルが高いので、どうせ僕には無理だと思います」と悲観的になったりして、なかなか改善の兆しが見えません。
あなたから見て、黒木君には以下のような特性があります。
- もともと保守的な性格で、新たな挑戦を避ける傾向がある。
- 環境が変わっても、今までのやり方に固執して行動を変えようとしない。
- 自己肯定感が低く、自分に自信が持てていない。
- 悩んでいても周囲に相談しようとしない。
今朝の営業会議でも、黒木君の表情は暗く、営業成績の低迷に悩んでいる様子です。さて、あなたは黒木君に対してどのような指導をしますか?
考え方のポイント&解説
これは【保守的で、なかなか行動を変えようとしない部下への指導方法】について考えるケーススタディです。成功体験が少なく、上手くできるイメージが湧かないため行動を変えるのに時間がかかる部下に対して、上司の成功体験に基づいて「もっとここを変えてみたら?」とアドバイスを送っても、部下は行動に移すことはできません。むしろ、「上司の助言を実行に移せない自分は能力が低い」や「イメージが湧かないなんて言ったらバカにされそう」とストレスを感じて、ますます委縮してしまいます。
このケースような事象が起きてしまう原因は、黒木君のレジリエンスの低さにあります。レジリエンスとは、ネガティブな状況に陥った場合でも、それを引きずらず、速やかに元の状態に戻って判断・行動できる心の力をいいます。一般的には「精神的回復力」「ストレス適応力」「しなやかさ」「弾力性」等と表現されます。
レジリエンスの低い人には、以下の5つの特徴があります。
失敗や良くない結果が起きた原因をすべて自分の責任であると考える。責任感が強い人、自分に自信がなく自己批判することで集団の中での立場を守ろうとする人に多い。
相手の事情や立場を慮れず、「普通ならできる」「~と考えるのが当たり前」と常識やデータ、論理から性急に結論を導き出し、それに該当しないものにネガティブな感情を抱く。論理性の高い人、思いやりに欠ける人に多い
周囲からの指摘や指導の内容を冷静かつ客観的に受け止めることができずに、その時に湧き上がった「イヤだ」「責められている」「怖い」等、負の感情を抑えきない。論理性が低い人、自信がない人、感情が抑制できない人に多い
とにかく自分が一番大事。自分が傷つくこと、自分が損することに敏感で、傷つかない理由、損しない理由を懸命に探す。利己的な人、承認欲求の強い人に多い
できない理由に目を向け、リスク要因を過大に評価する。取り組む前から「どうせ無理」 「やっても無駄」と考える。自己肯定感の低い人、慎重で保守的な人に多い
黒木君は、営業成績が低迷していることで落ち込んでいます。しかし、自分から周囲に相談することはせず、また、周囲からのアドバイスを実行に移せていません。
本来であれば、低迷する営業成績と向き合い、状況を改善するために行動変容すべきですが、物事を悲観的に捉えて自分自身の行動をなかなか変えられずにいます。これは、レジリエンスの低い人の特徴⑤に該当します。
このような黒木君を指導するポイントは、悲観主義を受け入れた上で、具体的かつ現実的なアクションプランを設定し、小さな成功体験を積み上げることです。
まずは、黒木君の悲観的な気持ちを受け入れましょう。物事を悲観的に捉える人は、「自分が悲観的なのは分かるけど、どうしても皆のように楽観的には考えられない。そこを誰も理解してくれない」と感じていることが多いです。黒木君の悲観的な考え方を否定するのではなく、「なるほど、黒木君はそういう風に考えるんだね」と、受け入れてあげることが大切です。
その上で、黒木君の強みや成功体験を見つけて褒めてください。自分に自信がない人は、自分の特性やこれまでの経験から強みや成功体験を認知することが苦手です。それらを上司であるあなたから具体的に伝えてもらうことで、自己肯定感が高まり、ポジティブな気持ちになりやすいのです。
気持ちが前向きになったところで、小さな挑戦(=スモールステップ)を与えます。これは、失敗が難しいレベルの挑戦で構いません。黒木君は、失敗を嫌がって、新たな挑戦を避ける傾向が強いです。あなたから適度な挑戦を促すことで、自分の成長や可能性を実感することができるようになります。ただし、「こんな簡単なこと、他の人はできて当たり前だ」とネガティブに捉える可能性もあるので、黒木君が上手くできた時には、難しいことを成し遂げた時のように、大いに喜んでください。
小さな挑戦が成功すると、黒木君は自信をつけて、「次はこれもやってみようかな」と新たな挑戦を始めます。相談下手な黒木君のようなケースでは、意識的な声掛けや定期的な1on1ミーティングも効果的です。黒木君が成功イメージを持てるように、そして黒木君が新たな挑戦に挑めるようにこまめにサポートしてください。結果は小さな行動の積み重ねで生まれるものですから、黒木君がチャレンジを継続することで、営業成績も上がってくるでしょう。