コラム
新人・若手社員の告白シリーズ②若手社員の退職理由 「本音」と「建前」
『終身雇用の限界』が叫ばれて久しい今日、転職は当たり前となり、会社を退職するという選択も身近なものとなっています。
一方、近年では『退職代行』というサービスが注目を集めています。社員本人に代わって、労働法務に詳しいエージェントが勤務先との連絡や交渉をおこなうというサービスは、おもに若い世代を中心に利用者が増えています。その背景には、退職を希望する社員が「退職にあたって余計なストレスを受けたくない」と不安を感じていることがうかがえます。たとえポジティブな退職理由であっても、退職する社員と他のメンバーとの信頼関係が十分に築けていなければ、本人の口から退職を伝えるのは気が重いことでしょう。
では、社員本人が退職を申し出る場合、彼らはその理由をどうやって勤務先に伝えているのでしょうか。
本記事では、さまざまな理由で会社を辞めた経験がある方を対象に【実際の退職理由(本音)】と【会社に伝えた退職理由(建前)】のアンケート調査をおこない、その結果をご紹介いたします。
※本記事の編集にあたり、転職や退職の経験がある20~40歳の500名を対象にアンケートを実施しました。質問は「あなたが会社を退職したとき、【実際の退職理由(本音)】と【会社に伝えた退職理由(建前)】は何ですか?(選択式)」です。記事内では有効回答として得られた414名の回答の集計結果を公開させていただきます。
今回のアンケート調査は、以下の22の選択肢の中から、それぞれの退職理由に当てはまるものを選んでいただきました。(5つまで複数回答可)
- キャリアアップしたい
- 他にやりたいことが見つかった
- 仕事に変化がない・おもしろくない
- 今の環境では成長が望めない
- 会社の経営方針・経営状況が変わった
- 会社の将来性に不安を感じた
- 残業が多い・労働時間に不満がある
- 職場環境に不満がある
- 給与・賞与に不満がある
- 経営者の人柄や考え方が好きになれなかった
- 上司との人間関係が悪い
- 同僚・先輩・後輩との人間関係が悪い
- 通勤がたいへんである
- 社風が合わない
- 雇用形態に不満がある
- 昇進・評価制度に疑問・不満がある
- 不本意な転勤・異動を命じられた
- いじめやハラスメントがあった
- 家族・家庭の事情が変わった
- 健康上の理由で続けるのが困難になった
- 能力的についていくのが困難だった
- その他
- 1位:キャリアアップしたい (81人/19.6%)
- 2位:他にやりたいことが見つかった (70人/16.9%)
- 2位:健康上の理由で続けるのが困難になった (70人/16.9%)
- 4位:家族・家庭の事情が変わった (67人/16.2%)
- 5位:能力的についていくのが困難だった (32人/7.7%)
- 6位:給与・賞与に不満がある (31人/7.5%)
- 7位:職場環境に不満がある (26人/6.3%)
- 8位:残業が多い・労働時間に不満がある (23人/5.6%)
- 9位:今の環境では成長が望めない (17人/4.1%)
- 10位:その他 (16人/3.9%)
「キャリアアップしたい」「他にやりたいことが見つかった」などのポジティブな理由や、「健康上の理由」「家族・家庭の事情」などの企業としてはどうしようもない理由が、多くの票を集めました。このような理由であれば、上司や人事担当も納得してくれる可能性が高く、退職にあたって揉めるリスクも軽減されます。ただし、これらの回答の中には『実際の理由を率直に伝えたパターン』と『本音を隠すために架空の理由を伝えたパターン』が混在しています。(詳しい分析は後述)
- 1位:職場環境に不満がある (119人/28.7%)
- 2位:給与・賞与に不満がある (92人/22.2%)
- 3位:キャリアアップしたい (91人/22.0%)
- 4位:残業が多い・労働時間に不満がある (68人/16.4%)
- 5位:仕事に変化がない・おもしろくない (66人/15.9%)
- 6位:他にやりたいことが見つかった (65人/15.7%)
- 7位:健康上の理由で続けるのが困難になった (60人/14.5%)
- 8位:今の環境では成長が望めない (56人/13.5%)
- 9位:上司との人間関係が悪い (55人/13.3%)
- 10位:同僚・先輩・後輩との人間関係が悪い (49人/11.8%)
①の【会社に伝えた退職理由(建前)】ではランクインしていなかったものが、いくつか見受けられました。「仕事に変化がない」「上司/同僚・先輩・後輩との人間関係」がそれに該当します。これらの理由に共通するのは、「企業から見るとネガティブに受け取られる」「社員本人の価値観や性格によって深刻さが異なる」という点です。こうした悩みは会社に相談しづらかったり、相談してもまともに取り合ってもらえなかったりなど、本人が抱え込まざるを得ずにさらなるストレスを感じてしまうのも特徴の一つでしょう。
- 1位:職場環境に不満がある (99人/23.9%)
- 2位:給与・賞与に不満がある (66人/15.9%)
- 3位:仕事に変化がない・おもしろくない (57人/13.8%)
- 4位:残業が多い・労働時間に不満がある (48人/11.6%)
- 5位:今の環境では成長が望めない (43人/10.4%)
- 5位:上司との人間関係が悪い (43人/10.4%)
- 7位:同僚・先輩・後輩との人間関係が悪い (40人/9.7%)
- 8位:会社の将来性に不安を感じた (36人/8.7%)
- 9位:社風が合わない (33人/8.0%)
- 10位:他にやりたいことが見つかった (29人/7.0%)
回答者が【実際の退職理由(本音)】としてチェックを入れたにも関わらず、【会社に伝えた退職理由(建前)】としてチェックを入れなかった項目をランキングしてみました。
②の【実際の退職理由(本音)】と比較すると、上位の項目はほぼ変わらず、回答者数の割合も大差がないことが分かります。ほとんどがネガティブな理由であることから、会社とのトラブルを避けるために、「率直に伝えるべきではない」と判断したのでしょう。ただし、本音を伝えない人は退職理由を偽って伝えているのかと言うと、そうとは限りません。数ある退職理由のうち、会社に話しやすいものだけを伝えるというパターンもあるのです。
- 1位:仕事に変化がない・おもしろくない (66人中57人/86.4%)
- 2位:職場環境に不満がある (119人中99人/83.2%)
- 3位:同僚・先輩・後輩との人間関係が悪い (49人中40人/81.6%)
- 4位:上司との人間関係が悪い (55人中43人/78.2%)
- 5位:今の環境では成長が望めない (56人中43人/76.8%)
- 6位:給与・賞与に不満がある (92人中66人/71.7%)
- 7位:残業が多い・労働時間に不満がある (68人中48人/70.6%)
②の【実際の退職理由(本音)】TOP10にランクインした項目を、隠ぺいした人の割合が多い順に並び変えました(ただし、隠ぺい率が50%以下の項目は割愛しました)。
実は、回答全体をさらに詳しく分析したところ、人間関係の悪化を隠ぺいしている人ほど、退職理由を偽って伝える傾向があることも分かりました。人間関係への疲れから「とにかく会社を離れよう」と決意しても、その理由を率直に伝えるわけにもいかず、「どうにかして他の理由を伝えなければならない」と苦しんだ結果なのかもしれません。
若手人材が会社を辞める理由の「本音」と「建前」について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
②の【実際の退職理由(本音)】や④の【『実際の退職理由』上位の隠ぺい率】の解説でも述べた通り、とくに社内の人間関係に関する悩みは、本人が抱え込む結果になりがちです。こうした状況は、やがて社内の人間関係の実情を水面下に埋もれさせ、会社の知らない間に深刻さが増していくことになります。
「人間関係は当事者の問題だから」と本人に対応を委ねた結果が『本当の理由を伝えずに退職』なのだとすれば、会社として社内の人間関係にメスを入れることも必要であると言えそうです。
そうなる前に、職場全体でレジリエンスについて考えたり、レジリエンスの高い人の考え方を学ぶ機会を作ったりすることをお薦めします。
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