コラム
新人・若手社員の告白シリーズ④カスタマーハラスメントに遭遇しやすい条件とは?
稀代の大演歌歌手の三波春夫さんは「お客様は神様です」という言葉を流行らせました。(若い世代の方、わからなかったらスミマセン。検索してくださいm(__)m)
その真意には「完璧な芸を演じるには、神様に祈るときのような真剣さ・清らかな心でお客様の前に立たねばならない」という信念があったそうです。
しかし、本来の想いとは裏腹に、この言葉を「お客様はお金を支払ってくれる神様のような存在であり、逆らうことは許されない」と曲解し、お店やサービス提供者を屈服させるための“印籠”として用いる人が多くなっています。(印籠という言葉も古くてスミマセン。「水戸黄門 印籠」で画像検索してください)
現在では「カスタマーハラスメント」という言葉が定着し、厚生労働省も対策に向けたガイドラインを発表するなど、日本の社会問題として広く認知されるようになりました。
そこで本記事では、40歳までの若い社会人の方々に「職場でのカスタマーハラスメント」について聞いてみました。その結果をご紹介いたします。
※本記事の編集にあたり、20~40歳の1000名を対象にアンケートを実施しました。質問は「あなたが働いている職場(または過去に働いていた職場)の従業員が、利用客や取引先から理不尽な言動を受けてしまったことはありますか?」と「利用客や取引先から受けた理不尽な言動は、どんな内容ですか?(記述式)」です。記事内では有効回答として得られた864名の回答の集計結果を公開させていただきます。
初めに、「あなた(あるいは同じ職場のメンバー)が、利用客や取引先から理不尽な言動を受けてしまったことはありますか?」という質問に対して、『ある(自分自身)』『ある(同じ職場の仲間)』『ない』の中から回答を選んでいただきました(複数回答可)。
今回の考察では、2つの『ある』という選択肢のうち、『ある(自分自身)』のほうに焦点を当ててみました。その上で回答人数を比較した結果は以下の通りです。
利用客や取引先からの理不尽な言動―いわゆるカスタマーハラスメントを受けたことがあると受け止めている方が「4~5人に1人」の割合でいることが分かりました。母数は異なりますが、厚生労働省による令和2年度の調査において、『理不尽な言動を受けたことがある』と答えた方は約15.0%だったそうです。そう考えると、「若い世代はカスタマーハラスメントに遭遇する割合が多い」もしくは「この数年でカスタマーハラスメントが増加している」という仮説も立ちます。
では、今回のアンケートで『カスハラを受けたことがある』と答えた方にはどのような傾向があるのか、詳しく見ていきましょう。
『理不尽な言動を受けたことがある』と回答した人について、性別と年代ごとの分布は以下の通りです。
男性 | 女性 | 全体 | |
---|---|---|---|
20~24歳 | 36.4%(4人/11人) | 25.0%(6人/24人) | 28.6%(10人/35人) |
25~29歳 | 8.1%(6人/74人) | 12.9%(9人/70人) | 10.4%(15人/144人) |
30~34歳 | 12.0%(14人/117人) | 25.0%(34人/136人) | 19.0%(48人/253人) |
35~39歳 | 27.2%(47人/173人) | 31.0%(53人/171人) | 29.1%(100人/344人) |
40歳 | 24.5%(13人/53人) | 22.9%(8人/35人) | 23.9%(21人/88人) |
全体 | 19.6%(84人/428人) | 25.2%(110人/436人) | 22.5%(194人/864人) |
これらの割合を比較すると、性別と年代によって大きな差があることが分かります。
まず、性別による割合を比較すると、男性よりも女性のほうが多いという結果になりました。今回、「具体的にどんな言動を受けましたか?」という質問に対して、『卑猥なことを言われた』『容姿の悪口を言われた』などの回答が複数の女性から寄せられました。今回の調査において、男性から同様の意見がほぼなかったことを考えると、利用客の中には「相手が女性だから」という理不尽な理由で尊大な態度をとる人が、いまだに少なからず存在している可能性が伺えます。
また、年代別による割合は、母数の違いはあるものの年齢区分ごとに大きく変動しています。この結果からは、先ほど述べた「若い世代ほど理不尽な言動を受けやすい」という仮説は成り立ちません。一見すると不規則な分布のように思えますが、ここで『年代による経験、役職の変遷』を考慮しながら割合を比較すると、以下のような推測ができます。
- 20代前半
- 20代後半
- 30代前半
- 30代後半以降
- 40代
…社会に出たばかりで、”価値観の違う人”と接した経験が少ない時期。面識もない相手が高圧的に接してくることへのショックから、”ハラスメント”と受け取る可能性がある。
…多様な価値観の人と接することに慣れてきた時期。高圧的な態度への耐性が身に付き、理不尽なクレームへの対応には上司のサポートを得られる可能性がある。
…人によっては、管理者や責任者に就く時期。高圧的な態度の利用客にも冷静に対応できる一方、理不尽なクレームへの対応を迫られる機会も増える可能性がある。
…管理者や責任者に就く割合が増える時期。長い期間にわたってクレーム対応に携わっている人の場合、心ない言葉を受ける機会もより多くなる。
…管理者や責任者に就く割合がさらに増える時期。”理不尽なクレーム=ハラスメント“という認識が広まる前の世代だが、一部の人は悪質な利用客に遭遇した経験もある。
このように、カスタマーハラスメントの遭いやすさを性別・年代ごとに分析した結果、『利用客が“言う相手”を選んでいる』『立場上、利用客の”言う相手”にならざるを得ない』という2つの要素が関連しているものと考えられます。他にも、世代ごとの『”ハラスメント”への認識』の違いにより言動の受け取り方が異なる可能性も否定はできません。
では、『理不尽な言動を受けたことがある』と回答した人の職種ごとの分布はどうなっているのでしょうか。結果は以下の通りです。
男性 | 女性 | 全体 | |
---|---|---|---|
パート アルバイト |
10.4%(8人/77人) | 21.1%(30人/142人) | 17.4%(38人/219人) |
会社員 (契約・派遣) |
26.3%(5人/19人) | 26.3%(10人/38人) | 26.3%(15人/57人) |
会社員 (正社員) |
21.0%(57人/271人) | 28.3%(56人/198人) | 24.1%(113人/469人) |
公務員 (教員は除く) |
30.0%(6人/20人) | 42.9%(6人/14人) | 35.3%(12人/34人) |
医療従事者 | 40.0%(2人/5人) | 30.8%(4人/13人) | 33.3%(6人/18人) |
自営業 | 17.6%(3人/17人) | 6.7%(1人/15人) | 12.5%(4人/32人) |
ここで前述の【表1】を改めてご覧ください。【表1】では『回答者全体:22.5%』『男性全体:19.6%』『女性全体:25.2%』という結果になっていましたが、これら全体の割合と比較し、特定の職種において「大きな乖離」が見受けられることが分かります。
なぜそのような傾向が表れているのかを職種ごとに考察してみましょう。
パート/アルバイトで『理不尽な言動を受けたことがある』と回答した方の割合は、母数が非常に多いにもかかわらず、全体の割合よりも大幅に少なくなっています。店頭などで常に利用客と接している人が多いイメージがあるだけに、意外な結果かもしれません。
なぜパート/アルバイトはカスタマーハラスメントに遭った経験が少ないのか、いくつかの要因が推測できます。
- トラブル対応にあたることが少ない
- 勤務時間が限られる
- 業務内容が易しい
- 「責任者ではない」と認識されている
…クレームやトラブルが発生した場合、社員スタッフに対応を代わってもらうことが多い
…勤務時間や出勤日が限られるスタッフの場合、そもそも利用客との接点が少ない
…易しい業務に携わっているスタッフの場合、スムーズな対応ができ、不満を持たれるリスクが低い
…利用客が「アルバイトにクレームを言っても仕方がない」と考えている場合、深入りしてこないことがある
このように、パート/アルバイトは店頭など多くの利用客の目につく場所で働いていたとしても、理不尽な言動を直接突きつけられることは少ない場合があります。そう考えると、実際にトラブルの対応にあたる正社員が、全体よりも高い割合で『理不尽な言動を受けたことがある』と回答しているのも合点がいきます。これらの結果はまさに”表裏一体”と言えるでしょう。
公務員の場合、『理不尽な言動を受けたことがある』と回答した人の割合は全体よりも多くなっています。このアンケートにおける「公務員」とは、役所の職員など「教職員以外の公務員」を指します。それを踏まえた上で、なぜ公務員は理不尽な言動を受けた経験が多いのか、要因をいくつか推測してみましょう。
- 柔軟な対応が難しい
- 生活上の利益に関わっている
- 業務内容が難しい
- トラブル対応に関わる業務が多い
…法律や条例に基づいて対応しなければならず、利用者の要求に応えられないことがある
…納税や福祉など市民の生活に関わる業務が多く、利用者からの期待や要求のハードルが高い
…複雑な業務に携わっている人の場合、『対応が遅い』『手違いがあった』などの理由で不満を持たれるリスクが高い
…困りごとやトラブルの相談に訪れた利用者の場合、普段よりも気持ちの余裕が少ない
このように、公務員はさまざまな事情を抱えた利用者への対応にあたっており、少しでも対応を誤ると利用者の不満が爆発しかねない一触即発の状況に置かれる機会も多いものと思われます。
また、公務員に対していわゆる”お役所仕事”のイメージを持っている利用者が、厳しい態度で接してくる場合もあるかもしれません。しかし、利用者の側としては「”心ない言葉”で要望を伝えても、相手は心を閉ざすだけ」ということを忘れずにいたいものです。私たちはお互いに人間なのですから。
他の職種よりも母数は少ないですが、医師や看護師などの医療従事者も『理不尽な言動を受けたことがある』と回答した方の割合が多いという結果でした。医療現場に関しては、「カスタマーハラスメント」の言葉が広まる以前の2000年代から「モンスターペイシェント」という言葉が知られており、社会問題の一つとしてメディアに採り上げられてきました。
なぜ医療現場ではこうした理不尽な言動・振る舞いが行われやすいのでしょうか。これにもいくつかの要因が推測できます。
- 心理的に不安定な相手に接する
- 専門家として前提となる期待値が高い
- 難解なコミュニケーションが多い
- 不祥事に触れる機会が増え、警戒心が高まっている
…病気やケガによる苦痛、闘病生活による制限などから、患者のストレスが溜まりやすい
…『”必ず”治してくれる』『治すのが当たり前』など過度な期待を抱く患者の場合、実際の対応に不満を抱きやすい
…医療の知識がない患者の場合、医療従事者の言うことを理解または納得できずにトラブルを招くことがある
…医療ミスや”ドクハラ”など医療従事者の不祥事に関心が集まり、”患者の権利”への意識が強くなっている
このように、命や健康に不安を感じている患者(あるいはその家族)は感情的に脆くなりがちで、彼らの対応にあたっている医療従事者に向かって”心ない言葉”を浴びせるケースは多いものと想像できます。
新型コロナウィルスの感染が拡大していた頃、医療従事者をはじめとする”エッセンシャル・ワーカー”の過酷な業務環境に社会問題の片鱗を感じた方もいるのではないでしょうか。公務員の項でも述べた通り、人々の生活に深く関わる業務に携わる人は、他の職種よりも多くの“切羽詰まった”利用者と接する分、『心ない利用者』に出会う確率が高くなるのかもしれません。
『カスタマーハラスメントに遭いやすい条件』をテーマに解説いたしましたが、いかがでしたでしょうか。
今回のアンケートでは「具体的にどんな言動を受けましたか?」という質問にも多くの回答をいただきましたが、その中には『怒鳴られた』『値引きをしつこく迫られた』などのモラルに欠いたものから『暴力を振るわれた』『”命を奪う”と脅迫された』などの犯罪行為まで、様々なケースが赤裸々に綴られていました。
レジリエンスについて紹介している当サイトでは、「捉え方を変えることで、ストレスに対処しましょう」というアプローチをよくお勧めしています。では、カスタマーハラスメントに遭遇した場合は、『お客様にも事情があるのだから、気にしないようにする』という対処法が正しいのでしょうか?
いいえ、それは違います。
私たちの考える”レジリエンス”とは「ストレスに対処して、仕事の目的を達成すること」です。たとえ捉え方を変えたとしても、仕事の成果を上げる行動につなげられない限り、それを”レジリエンス”と呼ぶことはできません。したがって、業務の成果に視野を向けるならば、『お客様の要求が正当なのかを冷静に判断する』『明らかに悪意のあるお客様には毅然と対応し、職場の環境を守る』ことが正しい対処法であり、正しい”レジリエンス”のあり方なのです。
「お客様は神様です」の言葉に込められた想いと同様に、「レジリエンス」に込められた私たちの想いも正しく世の中に広がってくれると嬉しいです。
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