コラム
新人・若手社員の告白シリーズ⑤あなたの周りの”萎えている”新人
新年度が始まってから半年が経過した10月、入社1年目の社員も新しい職場の環境に少しずつ慣れてくる頃でしょう。「新しい仕事を通して、これから活躍していこう!」と意気込んで、業務や自己研鑽に励む新人の姿は、周囲のメンバーにとっても良い刺激になります。ところが、入社から数か月が経った新人が意欲を燃やすどころか、「最近、元気がなくなってきた」などの不安定な状態にある場合、一転して周囲のメンバーに悪い影響が及びかねません。
世間では、新卒入社の社員が新しい環境から受けるストレスに萎えてしまう現象を『5月病』と呼んできました。周囲のメンバーにも伝わってしまうほどにストレスが現れている場合、それは早期退職の兆候かもしれません。
そこで今回は、企業で働く社会人を対象に「あなたの周りの”萎えている”新人」について聞いてみました。その結果をご紹介いたします。
本記事の編集にあたり、1000名を対象にアンケートを実施しました。質問は「今年入社した新人の中に、ネガティブな変化の見受けられる人はいますか?」と「新人にネガティブな変化が現れた要因として、あてはまるものは何だと思いますか?(複数回答可)」です。記事内では有効回答として得られた643名の回答の集計結果を公開させていただきます。
今回のアンケートでは、事前に「今年、あなたの職場に新しく入社した社員は何人ですか?(新卒・中途は不問)」と質問した上で、新人が1人以上入社している方を対象に『”ネガティブな変化”の見受けられる新人』の有無を問いました。この設問における”ネガティブな変化”とは、例えば入社当初と比べて「元気がなくなった」「消極的になった」など、業務の遂行に何らかの悪い影響が表れている様子を指します。その結果は以下の通りです。
「新人との接点がないので分からない」という方も一定数いましたが、それでも回答者の4~5人に1人は、「ネガティブな状態の新人と接している」ことが分かります。
厚生労働省の統計でも、4大卒の11~12%、高卒の16~18%程度が1年以内に退職をするという結果が出ています。そう考えると萎えてしまった新入社員の約半分くらいは持ち直すことができずに退職してしまうのかもしれません。
「新人にネガティブな変化が見受けられる」と答えた方には、続けて『新人がネガティブになっている要因として思い当たる事柄』についても聞いてみました。設問では16の選択肢の中から、当てはまるものを選んでいただきました(複数回答可)。
その結果を得票数の多かった順に並べると、以下の通りになります。
- 上司との人間関係 (55人/36.9%)
- 先輩・同僚との人間関係 (55人/36.9%)
- 仕事を覚えるのに苦労している (43人/28.9%)
- 長時間労働による肉体的な疲労 (40人/26.9%)
- 入社前に聞いていた労働条件やイメージとのギャップ (34人/22.8%)
- 長時間労働によるプライベートな時間の減少 (31人/20.8%)
- 顧客との人間関係 (28人/18.8%)
- 会社に対する不信・不安 (28人/18.8%)
- 目標を達成できない (27人/18.1%)
- 待遇への不満 (22人/14.8%)
- やりがいの喪失 (20人/13.4%)
- キャリアアップ・スキルアップ等への不安 (19人/12.8%)
- 休日・休暇を思ったように取得しづらい (18人/12.1%)
- 私生活での悩み (12人/8.1%)
- わからない (6人/4.0%)
- その他 (2人/1.3%)
周囲のメンバーから見た『新人がネガティブになっている要因』として、上司や先輩・同僚との人間関係、すなわち『職場内の人間関係』が突出して上位に挙げられていることが分かりました。『上司』または『先輩・同僚』のうち少なくとも1つを挙げた回答者の人数は、149人中83人(56.1%)でした。 とくに新卒入社の社員の場合、社会に出て幅広い年代の人々と接し、同時に業務の成果・成績などシビアなやり取りが続く環境においては、学生の頃とは全く性質の異なる”人間関係”に急激に晒され、疲れてしまう人も多いのだろうと思われます。
先ほども述べた通り、今回のアンケート調査では事前に『今年入社した新人の人数』にお答えいただいています。その設問においては、新人の人数を以下の選択肢から選んでいただきました。
- 0人
- 1~5人
- 6~10人
- 11~30人
- 31~100人
- 101人~
一般的には、組織の規模が大きいほど新人の採用人数も多い傾向にあるため、この設問の回答によって大まかな企業規模を知ることができます。
ここで、ストレスの要因として挙げられた事柄が、組織の規模によってどのような違いがあるのかを見てみましょう。
ネガティブな変化の表れている新人が『いる』と回答した人の割合は、以下の結果となりました。
今年入社した新人の人数 | 回答者数 | 「萎えてる新人がいる」と回答した人数 |
---|---|---|
今年入社した新人の人数 1~5人 |
264人 | 38人(14.4%) |
今年入社した新人の人数 6~10人 |
100人 | 25人(25.0%) |
今年入社した新人の人数 11~30人 |
95人 | 34人(35.8%) |
今年入社した新人の人数 31~100人 |
70人 | 21人(30.0%) |
今年入社した新人の人数 101人~ |
123人 | 31人(25.2%) |
この表から、人数の区分では真ん中にあたる『11~30人』を頂点に、山なりの分布になっていることが分かります。
一般的な傾向として、小さい規模の組織では新人一人ひとりに対して手厚いフォローが可能です。また大きい規模の組織では新人のフォロー人員が確保されているなど十分な体制が整っている可能性も高く、人員の層が厚ければ、新人の育成やコミュニケーションに向いている人材をフォロー役にあてがうことも可能でしょう。裏を返せば、どちらにも属さない中規模の組織ほど、フォローに必要な工数と投下できる資源の釣り合いを取るのが難しいという課題が結果に表れているのかもしれません。
②の項で述べた通り、新人を萎えさせている要因として最も多いのは『職場内の人間関係』、次いで『仕事を覚えられない』『長時間労働に伴う肉体的疲労』でした。では、これらの”主要なストレス要因”の割合は、組織の規模によってどのような違いがあるのでしょうか?
新人の人数別の回答者の割合は以下の通りです。
上司 | 先輩・同僚 | 仕事 | 疲労 | |
---|---|---|---|---|
1~5人(いる:38人) | 15人(39.5%) | 14人(36.8%) | 6人(15.8%) | 9人(23.7%) |
6~10人 (いる:25人) | 10人 (40.0%) | 12人 (48.0%) | 8人 (32.0%) | 7人 (28.0%) |
11~30人 (いる:34人) | 9人 (26.5%) | 12人 (35.3%) | 10人 (29.4%) | 5人 (14.7%) |
31~100人 (いる:21人) | 10人 (47.6%) | 8人 (38.1%) | 9人 (42.9%) | 9人 (42.9%) |
101人~ (いる:31人) | 11人 (35.5%) | 9人 (29.0%) | 10人 (32.3%) | 10人 (32.3%) |
こうして見ると、組織の規模が小さいほど、『職場内の人間関係』と『人間関係以外』との割合の差が大きいことが分かります。
少人数の組織の場合、社員同士のコミュニケーションがより密接になる分、人間関係の距離も近く、相性によってはストレスが多くなるものと考えられます。その代わり、仕事を教わるときもフォローが手厚いという長所もあります。あるいは、少数精鋭で運営する企業の場合、新人が即戦力として入社している可能性もあるでしょう。
また、組織の人員が少ないほど一人当たりの業務負担は多くなりますが、人員が多い組織でも、少人数のチームに分かれて業務を回している場合は、同様に負担がかかります。そのため、『疲労』の割合は人員数によって大きく異なりますが、必ずしも相関性があるとも言えないようです。
ここまではストレス要因として『職場内の人間関係』に焦点を当ててきましたが、それ以外のストレス要因はどれだけの影響を及ぼしているのでしょうか? 組織の規模別に『人間関係以外で得票率が25.0%以上だった項目』をまとめると、以下の通りです。
1~5人 (いる:38人) | 該当なし |
---|---|
6~10人(いる:25人) | 仕事が覚えられない:8人(32.0%) 長時間労働による肉体的な疲労:7人(28.0%) 入社前のイメージとのギャップ:7人(28.0%) |
11~30人(いる:34人) | 仕事が覚えられない:10人(29.4%) |
31~100人(いる:21人) | 仕事が覚えられない:9人(42.9%) 長時間労働による肉体的な疲労:9人(42.9%) 顧客との人間関係:6人(28.6%) 長時間労働によるプライベートな時間の減少:6人(28.6%) 会社に対する不信・不安:6人(28.6%) |
101人~(いる:31人) | 仕事が覚えられない:10人(32.3%) 長時間労働による肉体的な疲労:10人(32.3%) 入社前のイメージとのギャップ:10人(32.3%) |
顧客との人間関係:8人(25.8%) 目標を達成できない:8人(25.8%) |
おもなストレス要因として挙がっている『仕事を覚えられない』『長時間労働による疲労』を除くと、『入社前に聞いていた労働条件やイメージとのギャップ』や『顧客との人間関係』などの割合が多くなっています。
仕事を覚えられないと注意を受けたり、指導されたりする機会も多くなり、焦燥感や無能感を抱きやすく、なかなか自己肯定感が高まりません。また、注意をしてくる上司や先輩との人間関係も影響を及ぼしてきます。そう考えると、人間関係と同じくらいできる仕事を増やしていくことが重要だと言えそうです。
入社1年目の新人に影響を及ぼすストレス要因をテーマに解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
今回のアンケート調査は新人本人ではなく、新人の周囲のメンバーを対象としているため、本人以外に把握することの難しい個人的な悩み(『待遇への不満』『やりがいの喪失』など)の割合が少なく、『人間関係』や『疲労』といった周囲の目にも触れやすい要因が多くの票を得ました。これらの要因は、いずれも職場の環境が反映されたものです。もしかしたら回答者の方々も「職場内の人間関係が良くない」「長時間労働が蔓延している」ことを自身の経験として知っており、新人の悩みの種を容易に推察できているケースもあるかもしれません。
とくに『人間関係』に起因するストレスは、おそらくどの企業においても遭遇してしまう不可避のトラブルと言えるでしょう。新しい人材の定着を真剣に考える企業は、『若い世代がストレスに強くなることを願う』だけの”待ちの姿勢”に徹することなく、これらのストレス要因を生み出す職場環境の改善に取り組むことが求められるのです。
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