コラム

新人・若手社員の告白シリーズ⑪人事評価制度の理想と現実

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近年、大手の小説投稿サイトで「パーティー追放系」と呼ばれるジャンルの作品がトレンドになっています(パーティー:ドラクエなどのRPGにおける主人公たち一行)。このジャンルの作品は、おおむね以下のようなシナリオ展開に沿っていることが特徴です。
——味方の支援などの地味で目立たない役回りの主人公が、「役立たず」と決めつけられてパーティーを追放される。しかし実は主人公こそがパーティーの強さを支える“陰の功労者”で、彼を失ったパーティーは弱体化し、落ちぶれていく。一方、主人公は常人離れした支援能力を見出され、名声を得ていく——。
こうした「優れた能力を過小評価する者=敵」という構図の作品が人気を集める要因は、会社や学校などで日頃から『自分の能力をもっと高く評価されたい』と鬱屈している人が増えているからだと指摘する声もあります。

そこで今回は、企業で働く20~50代の社会人を対象に「人事評価制度への満足度」を調査し、その結果をご紹介いたします。なお、今回のアンケートでは「勤務先の従業員数」「入社年数」にも回答をいただき、満足度の傾向をより詳しく分析する際に用いました。

本記事の編集にあたり、1000名を対象にアンケートを実施しました。質問の内容は「あなたの職場に人事評価制度はありますか?」および「人事評価制度に満足していますか?」「あなたの職場の人事評価制度の良い点/悪い点は何ですか?」です。また、「勤務先の従業員数」「入社年数」にも回答いただき、満足度の詳しい傾向の分析に用いました。記事内では有効回答として得られた964名の回答の集計結果を公開させていただきます。

1.人事評価制度への満足度

今回のアンケートは人事評価制度を運用している企業で働く社会人を対象としているため、はじめに「あなたの会社に評価制度は設定されていますか?」と質問し、回答者を絞り込みました。その結果は以下の通りです。

ある
ない

全体

408人(42.3%)
556人(57.7%)

大企業においては、複数いる評価者の人事評価の偏りをなくすために評価制度が必須となりますが、中小企業では『経営者が自分一人で評価するから問題はない』などの理由で評価制度を設けていない場合も少なくありません。実際に、今回のアンケートにおいても、「勤務先の企業の従業員数」が多い人ほど『ある』と回答する割合が多くなる結果となっています。

では、『ある』と答えた408人(うち有効回答380人)の回答者に「あなたの会社の人事評価制度に対して、どれくらい満足していますか?」と質問した結果を見てみましょう。

【グラフ1】人事評価に対する満足度

【グラフ1】人事評価に対する満足度

結果を見ればわかる通り、満足度の高いグループ(満足、やや満足)のほうが、満足度の低いグループ(不満、やや不満)よりも比率が多くなっています。
ここで、回答者を「年代」および「社歴」で区分して満足度を比較した結果をご覧ください。なお、入社年数の区分は『1~3年』『4~9年』『10年以上』としています。

【グラフ2】年代別の人事評価制度に対する満足度

【グラフ2】年代別の人事評価制度に対する満足度

【グラフ3】社歴別の人事評価制度に対する満足度

【グラフ3】社歴別の人事評価制度に対する満足度

このように、「20代」と「入社1~3年」の方ほど、人事評価制度への満足度が高い傾向が見られました。ただし、社歴の浅い社員は当然若い年代が多く、さらに入社3年未満であっても40代・50代の方は満足度が低い傾向が表れていることを考慮すると、社歴よりも年代のほうが満足度への影響が強いと言えそうです。

なぜ、若い年代の社員は人事評価制度への満足度が高いのでしょうか?
理由の一つとして「新人・若手社員は自分の評価が低くても当然のこととして受け入れられる」ことが挙げられます。多くの場合、人は『自分の実力を低く評価されている』と感じたときに不満を抱くため、スキルや経験が未熟な新人や若手社員は、実力と評価のギャップが生じにくいものと考えられます。
もう一つの理由として考えられるのは、「初任給の引き上げによって若者世代が昇給しやすくなっている」ことです。近年、物価高や人材不足への対策として最低賃金の引き上げが進んだ結果、若手社員が優先的に昇給しやすい情勢が作られつつある一方、企業の昇給原資(=給与の増加分に充てる予算)は中堅以上の社員に回されにくくなっています。とくに中小企業の中堅社員は、一定の等級まで達すると先輩社員との給与のバランスが調整しづらくなり、「人事評価は実施するが、昇給がしにくくなる」という状況に置かれるケースも見られます。つまり、企業の財務状況が人事評価の結果に影響を及ぼす実情があるのです。

では次に、人事評価制度に対して『満足』あるいは『不満』を感じる理由について詳しく掘り下げてみましょう。

2.人事評価制度に『満足』を感じる理由

まず「あなたの会社の人事評価制度の『良い点』について、当てはまるものを選んでください。」に対する回答を見てみましょう。この設問では、8種類の選択肢(『その他』含む)の中から、当てはまるものを1つ以上選んでいただきました。各選択肢を得票数の多い順に並び変えた結果は以下の通りです。

【グラフ4】人事評価制度の良い点

【グラフ4】人事評価制度の良い点

ここに挙げられた選択肢はいずれも、人事評価制度を運用する上では本来順守すべき事柄ですが、中でもとくに多く挙げられたのは『評価項目が役割・業務内容に合っている』『評価の判定基準が明確』の2つでした。
『評価項目が合っている』は、企業規模別や入社年数別に区分して集計しても、ほぼ全ての層で最も多く選ばれる結果となりました。また、『判定基準が明確』もほとんどの層で2番目に多い結果となりましたが、「入社4~9年」の中堅社員のグループでは『評価者が信頼できる』が2位に入れ替わっています。

ところで、人事評価制度は「正しく評価をすること」と「正しく報酬を与えること」を目指して設計されるものです。しかし、良い点の上位には「正しい評価」に関連する要素が挙がっているのに対し、『給与や等級に反映されている』は下位にランクインしています。つまり、全体的な傾向では「評価結果はまずまず妥当だが、その結果として得られる報酬には満足していない」という実情が表れています。
また、この質問の回答結果から興味深いことが分かりました。先ほどの「人事評価制度への満足度」について『不満』と回答した方は、良い点として『給与や等級に反映されている』を最も多く挙げていたのです。評価結果に見合った報酬が設定されているのに、人事評価制度への満足度が最も低い『不満』を選んだのはなぜでしょうか。この傾向からは、「評価結果と給与は適切に関連づけられているが、高い評価が付きにくく給与が上がりにくい」という現状によって、人事評価に対する総合的な印象が『不満』に寄っていることが見えてきます。

3.人事評価制度に『不満』を感じる理由

続いて、「あなたの会社の人事評価制度の『悪い点』について、当てはまるものを選んでください。」と質問した結果を見てみましょう。 この設問では、先ほどの設問よりも多い12種類の選択肢(『その他』含む)の中から、当てはまるものを1つ以上選んでいただきました。各選択肢を得票数の多い順に並び変えた結果は以下の通りです。

【グラフ5】人事評価制度の悪い点

【グラフ5】人事評価制度の悪い点

「悪い点」では、『判定基準が不明確』『評価者によってブレがある』『縁の下の力持ち(目立たない功績)が評価されない』の3つが突出していました。また、回答者を企業規模別に区分すると、社員数100人以下のグループにおいては『フィードバックが不十分』が2位に挙がりました。

【グラフ4】と【グラフ5】を見比べると分かる通り、「良い点」と「悪い点」の選択肢には対となる組み合わせが含まれています。ここで、対になっている選択肢の順位を比較してみましょう。

評価項目が業務内容に合っている(1位) 評価項目が業務内容に合っていない(8位)
評価の判定基準が明確(2位) 評価の判定基準が不明確(1位)
評価者が信頼できる(3位) 評価者によって判定基準がブレている(2位)
定量的・定性的な評価のバランスが良い(4位) 売上や受注などの実績が尊重されすぎる(11位)
売上や受注などの実績が反映されない(10位)
等級や給与に正しく反映されている(5位) 等級や給与に正しく反映されていない(7位)
実際の成果や実績を反映してくれる(6位) 社長・上司の好き嫌いで評価が決まってしまう(6位)
評価結果のフィードバックをしてくれる(7位) 評価結果のフィードバックが不十分(5位)

例えば、『評価項目が業務内容に合っている』は良い点の最上位ですが、『評価項目が業務内容に合っていない』は悪い点の中では12個の選択肢がある中で8位という低い順位にあります。このことから、世間一般の傾向として、評価項目が業務内容に合わせて適切に設定されている企業が多いと推測できます。
また、『評価の判定基準が明確』と『評価の判定基準が不明確』はどちらもほぼ最上位にランクインしており、人事評価制度に対する満足度が「判定基準の明確さ」によって大きく左右されることが示されています。評価の判定基準に対して社員が強い関心を向けていることを表す結果と言えるでしょう。
反対に、『フィードバックをしてくれる』は良い点において8項目中7位でしたが、『フィードバックが不十分』は悪い点の中では12項目中5位であり、比較的上位に挙がっています。このような結果になるということは、社員にとって納得のいく内容のフィードバックを実施できている企業が少ないと考えられます。

ここで、【人事評価制度への満足度】の段落で述べた「企業の財務状況が人事評価の結果に影響を及ぼす」実態について振り返ってみましょう。
十分な昇給原資を確保できない企業では、社員を評価する際に判定基準が厳しくなる場合があります。具体的には、厳しめの減点方式で社員の働きを評価するようになり、「働きが不十分」→「昇給の要件を満たさない」という判定が下される傾向が強くなります。このような状況が長く続けば、社員は人事評価制度に疑問や不満を抱くのは当然です。これらを踏まえて「悪い点」の順位を改めて見ると、『評価に時間をかける割に給与が上がりづらい』が比較的上位に挙がっている要因も察せられるのではないでしょうか。

人事評価制度に対する満足度について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
本来ならば、人事評価制度の運用は「正しい人事評価→評価結果に基づく報酬の決定」を原則とします。多くの経営者は「仕組みの構築」に力を入れるものの、実際に運用してみると、「評価者のリテラシー」や「昇給原資となる収益」が不十分なために、仕組みの綿密さを活かしきれない例も多くあります。
人事評価制度には「職能資格制度」や「職務等級制度」など様々なタイプがありますが、どれも事業の性質や人員構成などによって相性の良し悪しが異なるものです。現時点では組織に合った制度であっても、増員や事業拡大などをきっかけに相性が変化してしまうため、制度の調整が常に必要とされます。

仕組みの構築以上に、制度の運用に労力が求められることを知っておきましょう。

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